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研究室紹介(曽根教授) 2018
曽根研究室
次世代のエレクトロニクスとめっき材料
曽根 正人 教授
1.はじめに
私は1987年東工大の三類(現・物質理工学院 応化系)に入学し、高分子工学を専攻しました。学部の授業で安部明廣名誉教授がこのような質問をしたのを覚えています。「化学における発見で人類の生活に最も革新を与えたものは何でしょうか?」。シリコンを基盤とする半導体の発見だろうかと考えました。答えは「高分子の発見」でした。我々は現在では合成高分子に触れずに生活することは無いですが、最も重要なことは我々そのものが高分子で構成されているわけであり、人類は1920年まで自分がどのような物質で構成されているか知らずに生きてきたわけです。最近ではフラーレン(C60)やグラフェンなど人類が無意識に作ったり触ったりしていたが認識できなかった材料の発見があります。材料の可能性はそこにあり、革新的な材料は「ありふれたもの」である可能性が高いと思います。現在私の研究室では金属材料を中心に研究しており、その中でも「めっき」という長い歴史を持つ技術を研究していますが、まだまだ未解明な問題が多いと感じています。
2.めっきと材料工学
めっき技術の歴史は長く,四千年前のメソポタミアにその起源を有しています.めっきは,外観を美しくする表面装飾や耐摩耗性を向上させる硬質化,そして腐食を防ぐ防錆処理などにおいて人類の文化と技術の発展に多大な影響を与えてきました.日本では8世紀に建築した奈良の大仏が挙げられます。本体の組み立てと鋳造に5年、仕上げとめっきに6年の歳月をかけています。総労働者は460万人であり、その当時最高の技術が集約された世界最大の金めっき構造体でありました。現代ではめっきはダマシンプロセスに代表される半導体集積回路配線製造技術や微小電気機械システム(MEMS)の作成に利用されています.
一般的にめっきは様々なものに被覆されていますが、その厚さはミクロンメートル単位です。我々の研究室の一つのテーマは、ミクロンメートル単位のめっき金属の機械的特性を計測する技術開発です。一般的なめっきの材料評価法は硬度測定です。硬度は金属の重要な物性指標ですが、材料の曲げや圧縮など様々な変形を記述するには不十分です。そこで私の研究室は、集束イオンビーム加工機(FIB)を用いて図1に示す様々な形状のマイクロメートルサイズの試験片を作製し、図2に示す東工大で開発された微小材料試験機を用いて材料試験を行う材料評価法方法を提案しています。この評価方法によりいままで測定できなかっためっき金属の機械的特性が定量的に測定可能となると同時に、曲げや引張りなどの変形に対するめっき金属の強度が明らかになってきています。そして次世代のエレクトロニクスや医用デバイスにはそれらの情報が必須なのです。
3.めっき金属の高強度化
金属の強度を向上する方法には、合金化や結晶粒微細化、析出強化などの方法が知られています。めっきを用いると電気化学的な手法によりそれらの強化方法を容易に複合化して実現できます。最近の私の研究室の主要テーマは、金及び金合金めっきの強化手法の研究です。5年前に益一哉先生(現・学長)から金めっきはどこまで高強度化できるのかを尋ねられました。益先生は、シリコンで作られている加速度センサを金めっきで作製することで超高感度化を実現し、その高感度センサを神経性難病の早期診断に利用する研究を続けています。金の降伏強度は大体0.05~0.2GPaであり、一般的に金は柔らかいというイメージがあります。「本研究室の技術では1.0GPaまでは行きそうです」答えて、共同研究開発を始めました。その時わかったことは、金めっきの材料研究は数えるほどしか無いことです。研究室のチャン助教や陳特任助教と学生たちの奮闘により、現在は純金めっきで0.9GPa、合金系で1.6GPaの降伏強度を実現しました。シリコンの破断強度は2.6GPaなので6割くらいまで到達したわけです。この研究の過程で、脆性持つ金材料や、ナノメートルサイズの柱状結晶からなる金が見出されました。金めっきは長い歴史を有しており、こんなにも未知の領域があり、こんなに多様性のある材料であることを知り驚いています。そして最も長い歴史を有する金材料が最先端の医用デバイスに利用することができ、神経性難病の早期診断を実現するのです。
4.曽根研究室について
本研究室はすずかけ台キャンパスのR2棟9階にあります。エレクトロニクスや次世代医用デバイスに用いる金属材料の創成方法と材料評価法の研究を進めています。本研究室の学生達は基本的に自分で研究が進められます。数度の国際学会発表と国際研究論文誌への投稿が推さます。
1.はじめに
私は1987年東工大の三類(現・物質理工学院 応化系)に入学し、高分子工学を専攻しました。学部の授業で安部明廣名誉教授がこのような質問をしたのを覚えています。「化学における発見で人類の生活に最も革新を与えたものは何でしょうか?」。シリコンを基盤とする半導体の発見だろうかと考えました。答えは「高分子の発見」でした。我々は現在では合成高分子に触れずに生活することは無いですが、最も重要なことは我々そのものが高分子で構成されているわけであり、人類は1920年まで自分がどのような物質で構成されているか知らずに生きてきたわけです。最近ではフラーレン(C60)やグラフェンなど人類が無意識に作ったり触ったりしていたが認識できなかった材料の発見があります。材料の可能性はそこにあり、革新的な材料は「ありふれたもの」である可能性が高いと思います。現在私の研究室では金属材料を中心に研究しており、その中でも「めっき」という長い歴史を持つ技術を研究していますが、まだまだ未解明な問題が多いと感じています。
2.めっきと材料工学
めっき技術の歴史は長く,四千年前のメソポタミアにその起源を有しています.めっきは,外観を美しくする表面装飾や耐摩耗性を向上させる硬質化,そして腐食を防ぐ防錆処理などにおいて人類の文化と技術の発展に多大な影響を与えてきました.日本では8世紀に建築した奈良の大仏が挙げられます。本体の組み立てと鋳造に5年、仕上げとめっきに6年の歳月をかけています。総労働者は460万人であり、その当時最高の技術が集約された世界最大の金めっき構造体でありました。現代ではめっきはダマシンプロセスに代表される半導体集積回路配線製造技術や微小電気機械システム(MEMS)の作成に利用されています.
一般的にめっきは様々なものに被覆されていますが、その厚さはミクロンメートル単位です。我々の研究室の一つのテーマは、ミクロンメートル単位のめっき金属の機械的特性を計測する技術開発です。一般的なめっきの材料評価法は硬度測定です。硬度は金属の重要な物性指標ですが、材料の曲げや圧縮など様々な変形を記述するには不十分です。そこで私の研究室は、集束イオンビーム加工機(FIB)を用いて図1に示す様々な形状のマイクロメートルサイズの試験片を作製し、図2に示す東工大で開発された微小材料試験機を用いて材料試験を行う材料評価法方法を提案しています。この評価方法によりいままで測定できなかっためっき金属の機械的特性が定量的に測定可能となると同時に、曲げや引張りなどの変形に対するめっき金属の強度が明らかになってきています。そして次世代のエレクトロニクスや医用デバイスにはそれらの情報が必須なのです。
3.めっき金属の高強度化
金属の強度を向上する方法には、合金化や結晶粒微細化、析出強化などの方法が知られています。めっきを用いると電気化学的な手法によりそれらの強化方法を容易に複合化して実現できます。最近の私の研究室の主要テーマは、金及び金合金めっきの強化手法の研究です。5年前に益一哉先生(現・学長)から金めっきはどこまで高強度化できるのかを尋ねられました。益先生は、シリコンで作られている加速度センサを金めっきで作製することで超高感度化を実現し、その高感度センサを神経性難病の早期診断に利用する研究を続けています。金の降伏強度は大体0.05~0.2GPaであり、一般的に金は柔らかいというイメージがあります。「本研究室の技術では1.0GPaまでは行きそうです」答えて、共同研究開発を始めました。その時わかったことは、金めっきの材料研究は数えるほどしか無いことです。研究室のチャン助教や陳特任助教と学生たちの奮闘により、現在は純金めっきで0.9GPa、合金系で1.6GPaの降伏強度を実現しました。シリコンの破断強度は2.6GPaなので6割くらいまで到達したわけです。この研究の過程で、脆性持つ金材料や、ナノメートルサイズの柱状結晶からなる金が見出されました。金めっきは長い歴史を有しており、こんなにも未知の領域があり、こんなに多様性のある材料であることを知り驚いています。そして最も長い歴史を有する金材料が最先端の医用デバイスに利用することができ、神経性難病の早期診断を実現するのです。
4.曽根研究室について
本研究室はすずかけ台キャンパスのR2棟9階にあります。エレクトロニクスや次世代医用デバイスに用いる金属材料の創成方法と材料評価法の研究を進めています。本研究室の学生達は基本的に自分で研究が進められます。数度の国際学会発表と国際研究論文誌への投稿が推奨されます。