トップ > 研究室紹介 2021年度
曽根正人_Tso-Fu Mark Chang 2020 ver.4.pdf
はじめに
次世代の医用デバイスでは高感度化・生体適合性・高耐久性など様々な特性が要求されており、材料工学においてはそれらの特性を同時に実現するために精密な組成制御やナノメーターオーダーおよび原子レベルでの構造制御により高機能化を実現する必要があり、同時にマイクロメートルサイズの材料評価技術が重要となってきている。当研究室では、次世代高感度医用デバイス実現のために半導体配線、微小な電気機械システム(MEMS)、ウェアラブルデバイスやセンシング技術を基盤とした電気化学的な合成手法によるマイクロ・ナノ材料創製技術の開発とともにマイクロサイズレベルでの材料の機能評価技術の研究開発を行っている。
1. 半導体配線技術の高感度医用デバイス分野への展開
半導体産業は、45兆円以上の世界市場規模を有しており、我が国においても国家を担う重要な役割を果たしている。この発展を支えているのは半導体製造における配線回路の微細化・高密度化技術の発展である。半導体製造技術の一つである配線形成技術では、電解めっき法を用いてCu配線を形成する手法が主流であり、日本、米国、韓国および台湾がその覇権を競っている。
当研究室では、超微細な構造体の洗浄技術である超臨界二酸化炭素の洗浄技術と、二酸化炭素を反応媒体に用いる新規な表面処理手法の研究開発である超臨界ナノプレーティング(SNP)法を用いることで超微細配線を実現した。我々が開発したSNP方法を用いて、直径が60nm・深さ120nmの埋込孔にCuを埋め込んだサンプルを、FIBで切削加工し透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した結果を図1に示す。この図より、このような微細な埋込孔にCuが欠陥無く埋め込まれていることがわかる。注目すべき点は、埋め込まれたCuが単結晶であることである。この結果は、新規手法が、結晶成長次元を制御し、無欠陥単結晶で配線可能であることを意味している。
2. マイクロメートルサイズ試験片の材料試験
マイクロサイズの構造を有する材料を作成した場合、その機械的性質はバルクとは異なっている。材料がマイクロスケールまで微小化されると降伏応力は増加する。この現象はサンプルサイズ効果と呼ばれており、サイズ現象に伴う転位あるいは転位源の欠乏が原因とされている。MEMSの構造材料はマイクロスケールであり、従って高感度MEMSセンサの構造設計においてはマイクロサイズ試験で得られるデータが必要不可欠である。当研究室は、今までに、Ni・Cu・Sn・Co・Al・Fe・Au・AuCu・AuPd・AuNiなどの金属の微小材料試験を行ってきた。微小材料試験としては、圧縮・曲げ・引張試験があり、それぞれに最適な試験片を提案してきた。図2に、集束イオンビーム加工機(FIB)により作成した角柱圧縮試験片、カンチレバー型曲げ試験片、ダンベル型引張試験片を示している。
3. フレキシブル多機能材料の創製
次世代のウェアラブルデバイスを実現するためには、高い柔軟性と多様な機能を持つ材料が必要とされている。柔軟性と機能性の統合について、多くが絶縁体であるテキスタイル繊維に導電性を付与するためのメタライゼーションが必要不可欠である。しかしながら金属皮膜と繊維表面との間の弱い結合力によって引き起こされるテキスタイル繊維上に見られる剥離欠陥、クラックなどは解決すべき重要な課題がある。当研究室は植物の構造、特に根系から新たな着想を得た。植物は土壌の中に深く根を生やし地面にしっかりと固定されている。図3に示すように、超臨界二酸化炭素を用いた無電解めっきにより、繊維構造中に深く金属の根の形成が可能になると報告されている。より優れたフレキシブル多機能材料を実現するには、金属皮膜と繊維間の接着・接合のメカニズムを研究する必要がある。
4. 単一金属原子の電解めっきの研究
金属材料の活性は、サイズが小さくなると増加することが知られている。可能な最小のサイズは、1つの原子のみで構成されるクラスターである。活性が高いため、原子レベルの金属を作製は非常に困難である。当研究室では、独自の単一原子電解めっきを使用して、担体材料の表面に原子レベル金属クラスターの装飾を実現した。原子レベルの金属クラスターの特性について、ユニークな偶奇効果(Even-Odd Effect)が観察された。原子レベル金クラスターが偶数の原子で構成されている場合の触媒活性が高く、奇数の場合の触媒活性が低くなる。図4に示すように、Au2とAu4は、Au1とAu3よりもプロパノールの酸化活性が高くなっている。最も重要なことは、原子レベルの金クラスター触媒が1-プロパノールと2-プロパノールを区別する能力を持っていることが確認されている。1-プロパノールと2-プロパノールの区別は、分子量が同じで化学構造が類似しているため、困難であることが知られている。
MEMSと触媒材料に関する研究は、電気工学と情報科学の研究グループと協力して、高感度の嗅覚センサを開発中である。原子レベル金属・光触媒・繊維の統合により致命的な感染症から私たちを守る衣服を実現することができる。応用例を図5に示す。
図5. 当研究室の最新の研究によって実現可能な応用例
その他
スタッフ:曽根教授、Chang准教授、陳特任助教、戸田秘書、学生14名(D3 ☓ 1、D2 ☓ 1、M2 ☓ 5、M1 ☓ 4、B4 ☓ 2 予定)。
就職(直近3年間):サイバーエージェント、ヤマハ株式会社、ENEOS、三菱マテリアル、M3、SONY、Continental、Apple、本田技研、神戸製鋼、リコー、東京電力。
学会活動:日本応用物理学会、マイクロ・ナノエンジニアリング国際学会(MNE)、国際電気化学会(ISE)、アメリカ電気化学会(ECS)などが中心。