研究内容
超臨界二酸化炭素を用いた新奇半導体配線技術
半導体産業は、45兆円以上の世界市場規模を有しており、我が国においても国家を担う重要な役割を果たしています。半導体製造技術の一つである配線形成技術では、電解めっき法を用いて銅配線を形成する手法(ダマシン法)が主流であり、その高密度微細化においてムーア則の極限と言われる7ナノノードを超えて、10ナノメートル配線幅に対応する「2ナノノード」への実現を目指し、更に「1.5ナノノード」あるいは「1ナノノード」といったもはや量子トンネル効果の影響が無視できなくなる領域へと研究が進んでいます。

曽根&Chang研究室では、電解質溶液と超臨界CO2のエマルションを形成して電気めっきを行うことで、CO2により水素気泡を吸収しピンホール(孔状欠陥)の無い均一な金属皮膜を形成できる技術を開発しました。この技術を、超臨界ナノプレーティング法(SNP法)と名付けました(図1参照)。SNP法は、レベリング効果(表面粗さを低減し平滑にする効果)及び均一電着性効果(膜厚を均一にする効果)において優れた金属めっき被膜を提供することが明らかにしています。更に、NEDO 次世代戦略技術実用化開発助成事業(2007-9)及び最先端次世代研究開発プログラム(課題番号GR037(2010-14))において60ナノメートル径かつアスペクト比5以上の細孔の銅配線を30cm円盤基板に無欠陥で埋め込む装置開発を実現しました(図2参照)。注目すべき点は、埋め込まれたCuが単結晶であることです。この結果は、新規手法が、結晶成長次元を制御し、無欠陥単結晶で配線可能であることを意味しています。

更に、超臨界CO2をめっき液に分散することで電流の断続を発生させて、電極表面へ吸着する活性種Cl–Cu2+-PEG錯体を複雑化し、かつ金属電析を制約することで、通常の電析と異なるめっき金属成長機序を実現することを見出しました。すなわち、超臨界CO2は通常のめっき液とは異なる断続電流反応場を形成することで様々な特異な電析を実現するのです。
MEMSデバイス材料のためのマイクロメートルサイズ材料試験法の開発
マイクロサイズの構造を有する材料を作成した場合、その機械的性質はバルクとは異なっている。材料がマイクロスケールまで微小化されると降伏応力は増加します。この現象はサンプルサイズ効果と呼ばれており、サイズ現象に伴う転位あるいは転位源の欠乏が原因とされています。MEMSの構造材料はマイクロスケールであり、従って高感度MEMSセンサの構造設計においてはマイクロサイズ試験で得られるデータが必要不可欠です。曽根&Chang研究室は、今までに、Ni、Cu、Sn、Co、Al、Fe、Au、AuCu、AuPd、AuNiなどの金属の微小材料試験を行ってきました。微小材料試験としては、圧縮・曲げ・引張試験があり、それぞれに最適な試験片を提案してきました。図3に、集束イオンビーム加工機(FIB)により作成した角柱圧縮試験片、カンチレバー型曲げ試験片、ダンベル型引張試験片を示しています。


これらの試験片を本研究室で開発した微小材料試験機(図4左)で機械的特性試験を行います。例として微小圧縮試験前後の光学顕微鏡像(図4右)を示します。FIBで作製した微小圧縮試験片が変形していることがわかります。このような試験方法により、微小なサイズの金属材料の変形挙動を明らかにすることができます。
単原子金属電析法による新しい触媒の開発
材料の触媒活性はそのサイズに依存することが知られています。粒子の最小の可能なサイズは、1つの原子から成る粒子です。したがって、原子レベルのクラスターは非常に高い触媒活性を示すと期待されています。しかし、その小さなサイズは安定性が低いという問題もあります。曽根-CHANGグループでは、導電性ポリマーサポート上に析出した金属クラスターを原子レベルで操作するためのオリジナルな単原子金属電析法を開発しています。この単原子金属電析法を用いて、性能向上した新しい触媒材料を実現が期待されています。

ナノ構造化された半導体光触媒材料を用いた脱炭素社会の実現に関する研究
半導体光触媒を用いたソーラー水素生産は、持続可能なエネルギー開発の中核的コンセプトとして注目されています。可視光および近赤外光に反応できる光触媒の開発が求められています。例えば、Au@Cu7S4ヨーク-シェルナノ構造は、可視光および近赤外線の励起下で長寿命の電荷分離状態を維持し、自己ドープされた非化学量論半導体ナノクリスタルの局所表面プラズモン共鳴(LSPR)特性を利用して、広範なスペクトルで駆動可能な光触媒反応の実現可能性を示しています。この可視光および近赤外線応答型の持続可能なヨーク-シェルナノ光触媒システムの開発により、太陽エネルギーのより効率的な活用や、水素などの再生可能なエネルギー源の生成が期待されます。これにより、持続可能なエネルギーの生産が促進され、環境への負荷が軽減される可能性があります。また、この研究は光触媒応用の新たな可能性を示唆し、将来的にはさらなるエネルギー革命や環境保護にも貢献できるでしょう。

マルチフェロイック光触媒ナノ粒子を用いた有機染料の分解に関する研究
近年、SDGs (持続可能な開発目標, Sustainable Development Goals)への関心が高まる中、デニムなどの衣料の染色過程で生じる多量の有機系排水のクリーンかつ高効率な浄化技術が課題となっています。従来の酸化チタンによる光触媒では、可視光を十分に活用できないことや、触媒の回収方法などに実用化の課題がありました。可視光を吸収する能力を持つマルチフェロイック材料に金ナノ粒子を担持することで、高効率の可視光光触媒として機能することを見出し、有機染料の可視光による高効率分解、および磁石を用いた触媒回収に成功しました。本技術を用いることで、グリーンエネルギーである太陽光を活用したリサイクル可能な水質浄化システムの実現が期待されます。
